「犬も歩けば棒に当たる」と言いますが、フィドラーが歩くとフィドルに当たります。油断した拍子にフィドルが1本増えてしまいました。19世紀半ばにドイツで活躍した製作者、Joseph Simonによる1867年の作品——
のぱちもんです。一般に名が知れた製作者ではありませんが腕がよかったようなので(少なくともお店においてあった製作者名鑑みたいな本では好意的な説明がされていました)、本物だったら私にはとても買えません。
実際の製作者も製作年代も不明。大きな修理の跡もなく状態がいいものの、材が痩せて年輪の夏の部分がはっきりとくぼんできていますので、それなりに年を経ていそうではあります。意外にceadより古かったりするかもしれません。あれこれ想像して楽しむ余地があるのが、出所不明の楽器のいいところです。
場所によってニスの濃淡にかなり差があり、まだらになっているのがいい味を出しています。オリジナルの濃い色のニスが大方はげてしまったのか、部分的に黒ずんだのかどちらでしょう?
全体のフォルムはいわゆるStainer型で、かなり特徴的です。表板、裏板とも端の部分から急激に盛り上がっており、まるで網で焼いたお餅のようにぱんぱんに膨らんでいます(本物のStainerは写真でしか知らないのでなんですが、本物より極端なように思います)。f字孔は急斜面の途中にあるため孔の縁の部分の高低差が大きく、左のf字孔からはバス・バーが丸見えです。一方、側板は狭めで、アーチが高いわりにはトータルの厚みはそれほどありません。また、ロウアー・バウツがやや広く、ボディの隆起とあいまってかなり大きく見えます。
cead同様、某楽器店の弦楽器フェアで出くわしたのですが、よくも悪くも目を引く外観ですので、面白がって手に取るお客さんが多かったそうです。ただ、欲しいと言い出したのは私だけだったとのこと。
こう書くとまるで100%衝動買いのようですが、実は前々からStainer型のフィドルは気になっていたのです。たまたまなのか共通の特徴なのかは分かりませんが、私が触ったことのあったStainer型のフィドルはどれも軽くてバランスがよく、また私の体型に合うのか構えたときに収まりがよくてとても弾きやすかったのです。ただ、乾いた硬い音色で、周りで聴くといい感じでも弾いている本人は耳について仕方がない、という傾向があって二の足を踏んでいました。また、なぜか私が楽器にかけてもいいと思える金額の上限ぎりぎりの価格帯のものばかりで、これを買ったらもう次はない、よぼよぼになってフィドルが持てなくなるまでずっとメインで使うことになる、というプレッシャー(?)もありました。
決め手になったのは、このタイプのフィドルとしてはやわらかい音色でさほどうるさく感じなかったこと、そして弾いてみるとボディだけでなくネックまで気持ちよく振動して非常に心地よかったことでした。例によって何度も試奏に行って、さんざん迷った末、やはりこの感触は捨てがたいということで購入に踏み切ってしまいました。まあ、悩み始めた時点で8割がた結果は見えていたわけですが・・・。
さて、このフィドルの名前は、標題のとおり、Ellylldanとしました。地域によってWil o'the Wisp、Jack o'lantern、Joan the Wadなどと呼ばれる鬼火の類のウェールズでの呼び名で、エシュシロンと読みます(ウェールズ語は英語の感覚だとこの綴りでなぜそうなるのか、という発音が多いです)。舌を噛みそうな名前ですが、いろいろある鬼火の呼び名の中から音が気に入ったものをとりました。鬼火を選んだ理由は2つ。まずは強い光沢と色むらのあるニスからの連想。そして、ブリテンの民話で語られる "旅人を沼地に誘い込む鬼火" のイメージです。鬼火についていったものは二度と戻りません。はい、すでに両足とも泥に埋まって脱け出せなくなってます。




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