"シアルフィ"は長丁場のセッションや練習会で愛用しているカーボン弓につけた名前です。メーカーはArcus。
ちなみにメインで使っているのは木製の弓ですが、こちらはなんとなくフィドルとセットで1つという気がするため特に名前はつけていません。
弓の材料にはペルナンブコという南米原産の木が使われることが多いのですが、近年伐採が進み、代替材料が模索されています。カーボンをはじめとする合成素材、ペルナンブコ以外の木などいろいろと試されていますが、基本的に「どこまでペルナンブコの弓に近づけられるか」が至上命題です。ところが、Arcusの弓は違います。もとからそういう志向のメーカーなのか開き直っただけなのか知りませんが、木製の弓とは似ても似つかないものに仕上がっています。そこが気に入ったポイントでした。
見た目はまるでヴィオラ弓。写りの悪い写真でなんですが、普通の弓と並べてみると印象が全く違います。
妙な外見もさることながら、手に取ってみると異様な軽さに驚きます。なんと50g。普通、ヴァイオリン弓は60g程度です。たった10gの違いですが、何も持っていないみたいで落ち着きません。
また、バランスはものすごくいいものの腰がなく、弦にかかる圧力も重心の位置も違うため、木製の弓と同じ弾き方だとなかなか音が出ません。それでもコツが飲み込めてくるとしっかり大きな音が出ますし、コントロールが楽で長時間弾いても疲れません。右手をあまり使わずにすむような感覚です。
こういう癖の強い弓は好き嫌いがきっぱり分かれそうです。実際、楽器店できいてみると一部でカルトな人気を博しているものの、クラシックの奏者は毛嫌いする人がほとんどだとか。さもありなん。
もちろん、私はこういうのが大好きです。材料が違えば違うものになって当たり前。材料の性質にあったものを作って、人間が道具に合わせればそれでいいと思います。そもそもヴァイオリンという楽器自体、人間が道具に合わせることを要求する楽器ですし。
さて、この弓につけたシアルフィ(Þjálfi)という名前は、北欧神話に登場する人物からとりました。雷神トールの従者をつとめる人間で、俊足で知られます。Swedishなど北欧のトラッドに向くという評判(私も賛成です)と、弓の軽さからなんとなく連想したのですが、なかなかぴったりのネーミングだと気に入っています。もっとも、「北欧+軽い」はシアルフィを連想したきっかけに過ぎません。弓の名前として選んだ決め手は、彼がトールの従者となったいきさつです。
シアルフィは農家の息子で、一家がトールに旅の宿を提供した際、その礼としてトールの車を引く山羊の肉を振舞われます。この山羊は、食べてしまっても翌朝には生き返っているという魔法の山羊なのです。食事の前にトールは宿主の一家に山羊の骨を傷つけてはいけないと強く戒めますが、食い意地に負けたシアルフィはこっそり脚の骨を割って髄をすすってしまいます。翌朝、山羊が後脚を引きずっているのに気づいたトールは激怒し、代償としてシアルフィとその妹ロクスヴァを自分の従者とします。
食べ物の誘惑に勝てなかった人物からとった名前。私の弓にぴったりですね。
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