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以前から持ち運びが楽な、手ごろのサイズのものはないものかと探していまして、目に留まったものを思わず買ってしまいました。かわいいと、なかなか好評であります。
冗談みたいなフィドルですがポシェット(pochette)は創作楽器ではなく、れっきとした古楽器です。きちんとは調べていませんが、どうも16世紀には存在していたようです。ということはフィドル/バイオリンの派生物というよりは、兄弟分にあたるのでしょうか。私のものはもちろんコピー物ですが、例えば18世紀に製作された「本物」がScotlandの博物館に陳列されていたりします。
pochetteの他にもkit、travel fiddle、dance master fiddleなどいろんな呼び方(ニックネーム含む?)があるようで、なんと呼んだものかちょっと悩ましいです。WikipediaではKit Violinとして項目がたってますね。この呼び方はここで初めて見ました。いったいどの呼び方がとおりがいいんでしょうか? そもそもとおりのいい呼び方ってあるんでしょうか?
pochette、dance master fiddleといった名のとおりポケットサイズのフィドルで、旅回りの楽師やダンス教師が使っていました。スコティッシュ・フィドルの偉人Niel Gowやアメリカ独立宣言を起草し、第3代大統領になったThomas Jeffersonもこのタイプのフィドルを弾いていたそうです。
さて、私のポシェットの話です。
どこから突っ込んでいいか迷うぐらいいい加減な作りですが、意外に鳴ります。とても "バイオリン" の音とは思えない音色ですが、これはこれで温かみがあってありです。そうと分かるといい加減な作りも味だと思えてくるので不思議ですね。イタリアン・バイオリンみたいな見事なニスが塗られていても変ですし、むしろこれぐらいの安っぽさでちょうどいいかもしれません。
マニアックな楽器の悲しさ、カタログだけで購入したため、実物が届いて初めて気づいたことがいろいろあります。
テールピースは分数サイズ(たぶん3/4?)で、エンドピンから駒までの距離が近く、右手はやや窮屈です。表板のアーチがないためボディのエッジから駒の頂点までの高低差が少なくなっていますので、弦長を確保するために駒の位置をエンドピン寄りにせざるを得なかった、ということだと思います。音量と、普通のフィドルとの持ち替えに配慮したのでしょう。それでも有効弦長がやや短いのか、左手の指のポジションは狭めです。
横幅がないため楽器が不安定で、慣れるまで苦労しそうです。気をつけていないとボウイングに引っ張られて楽器がひっくり返りそうになりますし、移弦するときには普通のフィドルより大げさに左手をさばかないと弦を押さえられません(圧力の向きがずれてしまって楽器を落っことしそうになります)。いや、たぶん不安定なのではなく、普通のフィドルと同じ考え方で楽器を保持しようとすること自体が間違いなんでしょう。
多少危惧していたものの悪い意味で予想以上だったのは、表板の強度のなさです。アーチがないため圧力に弱く、すでにわずかながら内部に向けて凹んでいます。いずれ表板の交換が必要になりそうです。フィドルの表板を作るより簡単そうですが、イレギュラーな形なので断られたり、工賃が大幅に割り増しになったりするかもしれませんね。いっそ工房ではなく、木工が得意な楽器マニアに頼んだほうがいいかもしれません。
よい方向に予想以上だったのは、持ち運びの楽さです。なんのかんの言ってケースは弓の長さに制約されますので、ケースの長さは普通のフィドルとさほど変わりません。が、細くなっただけでもこんなに楽なのか、と驚きました。軽いのもありがたいです。一式で1kgを切ってるんじゃないでしょうか。例えば平日に仕事カバンと一緒に持ち歩くなど、荷物の多いときはポシェットがメインになりそうです。
ポシェットのことは現物が届くまで内緒にしていたのですが、「新しいおもちゃが届いたんですよ」と口にした途端に「ポシェットでも買ったんですか?」と切り替えしてきた人がいました。私、そんなに分かりやすいですか?
音源
Niel Gow Replication Pochette Fiddle:
私が購入したポシェットの販売元が公開しているデモ演奏です(微妙にモデルチェンジしているみたいですが)。奇妙な構え方ですが、これが一般的なスタイルです。私も挑戦してみましたが、全然無理でした。
Darci Jones Playing Neil Gow Pochette:
こちらもデモ演奏。鎖骨に乗せて顎を添える、普通のスタイルで弾いています。私も同じスタイルで弾いていますが、テールピースに顎が触れて音量が小さくなってしまうので、超ミニサイズの顎当てを付けました。
Darci Jones Playing Tobin's Jig on Neil Gow Pochette:
ひとつ上の動画と同じフィドラーの、ダンス・チューンのデモ演奏です。
「犬も歩けば棒に当たる」と言いますが、フィドラーが歩くとフィドルに当たります。油断した拍子にフィドルが1本増えてしまいました。19世紀半ばにドイツで活躍した製作者、Joseph Simonによる1867年の作品——
のぱちもんです。一般に名が知れた製作者ではありませんが腕がよかったようなので(少なくともお店においてあった製作者名鑑みたいな本では好意的な説明がされていました)、本物だったら私にはとても買えません。
実際の製作者も製作年代も不明。大きな修理の跡もなく状態がいいものの、材が痩せて年輪の夏の部分がはっきりとくぼんできていますので、それなりに年を経ていそうではあります。意外にceadより古かったりするかもしれません。あれこれ想像して楽しむ余地があるのが、出所不明の楽器のいいところです。
場所によってニスの濃淡にかなり差があり、まだらになっているのがいい味を出しています。オリジナルの濃い色のニスが大方はげてしまったのか、部分的に黒ずんだのかどちらでしょう?
全体のフォルムはいわゆるStainer型で、かなり特徴的です。表板、裏板とも端の部分から急激に盛り上がっており、まるで網で焼いたお餅のようにぱんぱんに膨らんでいます(本物のStainerは写真でしか知らないのでなんですが、本物より極端なように思います)。f字孔は急斜面の途中にあるため孔の縁の部分の高低差が大きく、左のf字孔からはバス・バーが丸見えです。一方、側板は狭めで、アーチが高いわりにはトータルの厚みはそれほどありません。また、ロウアー・バウツがやや広く、ボディの隆起とあいまってかなり大きく見えます。
cead同様、某楽器店の弦楽器フェアで出くわしたのですが、よくも悪くも目を引く外観ですので、面白がって手に取るお客さんが多かったそうです。ただ、欲しいと言い出したのは私だけだったとのこと。
こう書くとまるで100%衝動買いのようですが、実は前々からStainer型のフィドルは気になっていたのです。たまたまなのか共通の特徴なのかは分かりませんが、私が触ったことのあったStainer型のフィドルはどれも軽くてバランスがよく、また私の体型に合うのか構えたときに収まりがよくてとても弾きやすかったのです。ただ、乾いた硬い音色で、周りで聴くといい感じでも弾いている本人は耳について仕方がない、という傾向があって二の足を踏んでいました。また、なぜか私が楽器にかけてもいいと思える金額の上限ぎりぎりの価格帯のものばかりで、これを買ったらもう次はない、よぼよぼになってフィドルが持てなくなるまでずっとメインで使うことになる、というプレッシャー(?)もありました。
決め手になったのは、このタイプのフィドルとしてはやわらかい音色でさほどうるさく感じなかったこと、そして弾いてみるとボディだけでなくネックまで気持ちよく振動して非常に心地よかったことでした。例によって何度も試奏に行って、さんざん迷った末、やはりこの感触は捨てがたいということで購入に踏み切ってしまいました。まあ、悩み始めた時点で8割がた結果は見えていたわけですが・・・。
さて、このフィドルの名前は、標題のとおり、Ellylldanとしました。地域によってWil o'the Wisp、Jack o'lantern、Joan the Wadなどと呼ばれる鬼火の類のウェールズでの呼び名で、エシュシロンと読みます(ウェールズ語は英語の感覚だとこの綴りでなぜそうなるのか、という発音が多いです)。舌を噛みそうな名前ですが、いろいろある鬼火の呼び名の中から音が気に入ったものをとりました。鬼火を選んだ理由は2つ。まずは強い光沢と色むらのあるニスからの連想。そして、ブリテンの民話で語られる "旅人を沼地に誘い込む鬼火" のイメージです。鬼火についていったものは二度と戻りません。はい、すでに両足とも泥に埋まって脱け出せなくなってます。
イメチェンというのとはちょっと違うんですが、毛の色を変えてみました。実は前々からやってみたかったのですが、周りの反応が怖くてなかなか踏み切れなかったんですよね。特に久々に顔を合わせた方々からえらく注目され、いかにもceadらしいとほめてるんだか呆れてるんだか微妙なコメントをいただきました。まあ、ドン引きされなかったのは何よりです。
こんな感じです。
想像以上に黒々としていてびっくりしました。写真では分かりにくいですが、人間の髪とは違った光沢があります。鴉の濡れ羽色というんでしょうか?
シアルフィを入手してからはや1年。サブ弓とはいえ、さすがに毛が磨り減って松脂の付きも悪くなってきていたので、そろそろなんとかしたい。しかし、せっかくの変り種の弓、普通に毛替えをしたのでは面白くない。いっちょ試してみるか。ということで、日頃お世話になっている楽器店で「黒い毛でお願いします」と頼んでみました。変な客だと思われるかな、とちょっと心配していたのですが、「料金は通常どおりです。時々こういうオーダーを受けますよ」とごく普通に受け流されました。なんでも黒い毛のほうが引っ掛かりがよく、それを好むプレイヤーもいるとか。そういえばバス弓って黒い毛を張ってますよね。・・・すみません、そんなこととは露知らず、完全に見た目勝負のオーダーでした。
正直なところ、黒い毛にして何か変わったのかどうか、さっぱり分かりません。そもそも毛がつるつるに磨り減ってしまったので毛替えに出すことにしたのです。引っ掛かりがよくなって弾きやすくなるのは当たり前。シアルフィを毛換えに出すのも初めてですし、黒い毛だから引っかかるのか、新しい毛だから引っかかるのか、なんとも言えません。黒い毛にしてみた感想は、
- 松脂を塗るとそこだけ灰色になるので、松脂の付き具合がよく分かって面白い。
- 黒いシャフトに黒い毛の組み合わせはおさまりがいい(黒いシャフトに白い毛はコントラストがきつすぎてなんだな、と思っていました)
- 松脂を付けるのがちょっと楽だった・・・ような気がする。やっぱり引っ掛かりがいいのかも? でも気のせいと言われれば否定できない。
といったどうでもいいレベルのものだけでした。
ちなみに、この黒は別に染めたわけではなく、自然のままの黒です。白い毛は漂白しているのだという説がありますが、人間だって脱色すると髪が痛みます。馬の毛も漂白すると繊維が弱くなりそうですよね。そういう話を読んだことがある気がする、と以前愛読していた雑誌のバックナンバーを引っ張り出してみたところ、やっぱり出てきました。
- 国産の毛は中性洗剤で洗っただけで、無漂白。必ずしも白馬のものではなく、白くない馬にも白い毛が混じっているのでそれも使う。
- モンゴルなどから輸入した安価な毛は漂白されているものもある(はっきり書いていませんが、私は漂白されている方が多いと受け取りました)。
- イタリア産の白馬の毛はとても高い(高品質とにおわせる書き方でした)。
- 毛替えの際に毛のグレードを指定できる店もあり、モンゴル産、国産、イタリア産(白馬)の順で高くなる。
ということで、毛が痛むとははっきり書かれていなかったものの、やっぱり漂白するのはあまりよくないようです。少なくとも、漂白していない方が高級な毛として扱われています。・・・単にプレミアが付くだけかもしれませんが。無漂白の白い毛と黒い毛に違いがあるのかも気になるところですが、そのへんは触れられていませんでした。
仮に漂白されていないほうが品質がよいとすると、黒い毛だと漂白していないのは確実なわけで、料金はそのままに丈夫で長持ち、と期待したいところですが・・・どうなんでしょうね。シアルフィはサブ弓だけに、使用頻度はそのときの気分に左右されますし、長持ちしているのかどうか判断するのはまず無理でしょう。やっぱり一番の効果は見た目の面白さでしょうか。
使い心地にこだわって黒い毛を愛用している方がいらしたらごめんなさい。
Sleipnir(仮名) 【 profile 】
北欧神話に登場するスレイプニル(Sleipnir)は8本の脚を持つ駿馬で、神々の王オーディンの乗馬です。ただでさえ脚が速い動物である馬の脚を倍にすることで俊足を強調し、そのうえ神秘性も加える見事な発想ですね。
ついでに、スレイプニルの"母親"がオーディンの"義兄弟"である悪戯好きの神ロキであるという設定も脱帽ものです。アースガルズの神々が巨人との賭けに負けそうになったとき、一計を案じたロキが雌馬に化けて巨人の馬を誘惑することで巨人の邪魔をし、勝負をひっくり返します。そのときにロキが身ごもった子供がスレイプニルというわけです。この物語を知ったのは高校生のとき。かなりの衝撃を受けました。
馬の脚を増やすと、神秘性を帯びた駿馬になります。ではフィドルの弦を増やすと何になるでしょう?
これは最近私の手元にやってきたフィドルです。弦の数が倍ということから、なんとなくスレイプニルを連想しました。いかにも大仰ですし、ヘッドは馬でなくてドラゴンなので変ではありますが一度連想してしまうとなかなか他の方向に想像力が働きません。とりあえずこいつは仮にSleipnirと命名します。全体の写真はこちらです。
演奏弦4本、共鳴弦5本あるモデルなので本当は弦が9本ありますが・・・9本目は尻尾です。気にしない方向で。
さて、気になる "余計な脚" 共鳴弦の効果ですが、今のところ2点気付いています。 演奏弦の音にぼんやりした響きをかぶせて音のエッジを曖昧にし、音色の柔らかさを増しています。これは以前からウェブ上の資料を漁ったり、CDを聴いたりして想像していたとおりです。もうひとつの効果は、ちょうど共鳴弦とハモる音を弾いたときに、しりん、と鈴が鳴るような音がします。超小型のハープがバッキングしてくれているような感覚です。これは予想外でした。
他にもどうも "箱" の鳴り方がフィドルと違うなど、いろいろと面白い特徴があります。もっとも、今はまだ付きあい方を探るためにいろいろな弾き方を試しているところですので、単に弾き方がおかしいだけかもしれません。もう少し試してみてから、後日改めてネタにしたいと思います。
"シアルフィ"は長丁場のセッションや練習会で愛用しているカーボン弓につけた名前です。メーカーはArcus。
ちなみにメインで使っているのは木製の弓ですが、こちらはなんとなくフィドルとセットで1つという気がするため特に名前はつけていません。
弓の材料にはペルナンブコという南米原産の木が使われることが多いのですが、近年伐採が進み、代替材料が模索されています。カーボンをはじめとする合成素材、ペルナンブコ以外の木などいろいろと試されていますが、基本的に「どこまでペルナンブコの弓に近づけられるか」が至上命題です。ところが、Arcusの弓は違います。もとからそういう志向のメーカーなのか開き直っただけなのか知りませんが、木製の弓とは似ても似つかないものに仕上がっています。そこが気に入ったポイントでした。
見た目はまるでヴィオラ弓。写りの悪い写真でなんですが、普通の弓と並べてみると印象が全く違います。
妙な外見もさることながら、手に取ってみると異様な軽さに驚きます。なんと50g。普通、ヴァイオリン弓は60g程度です。たった10gの違いですが、何も持っていないみたいで落ち着きません。
また、バランスはものすごくいいものの腰がなく、弦にかかる圧力も重心の位置も違うため、木製の弓と同じ弾き方だとなかなか音が出ません。それでもコツが飲み込めてくるとしっかり大きな音が出ますし、コントロールが楽で長時間弾いても疲れません。右手をあまり使わずにすむような感覚です。
こういう癖の強い弓は好き嫌いがきっぱり分かれそうです。実際、楽器店できいてみると一部でカルトな人気を博しているものの、クラシックの奏者は毛嫌いする人がほとんどだとか。さもありなん。
もちろん、私はこういうのが大好きです。材料が違えば違うものになって当たり前。材料の性質にあったものを作って、人間が道具に合わせればそれでいいと思います。そもそもヴァイオリンという楽器自体、人間が道具に合わせることを要求する楽器ですし。
さて、この弓につけたシアルフィ(Þjálfi)という名前は、北欧神話に登場する人物からとりました。雷神トールの従者をつとめる人間で、俊足で知られます。Swedishなど北欧のトラッドに向くという評判(私も賛成です)と、弓の軽さからなんとなく連想したのですが、なかなかぴったりのネーミングだと気に入っています。もっとも、「北欧+軽い」はシアルフィを連想したきっかけに過ぎません。弓の名前として選んだ決め手は、彼がトールの従者となったいきさつです。
シアルフィは農家の息子で、一家がトールに旅の宿を提供した際、その礼としてトールの車を引く山羊の肉を振舞われます。この山羊は、食べてしまっても翌朝には生き返っているという魔法の山羊なのです。食事の前にトールは宿主の一家に山羊の骨を傷つけてはいけないと強く戒めますが、食い意地に負けたシアルフィはこっそり脚の骨を割って髄をすすってしまいます。翌朝、山羊が後脚を引きずっているのに気づいたトールは激怒し、代償としてシアルフィとその妹ロクスヴァを自分の従者とします。
食べ物の誘惑に勝てなかった人物からとった名前。私の弓にぴったりですね。
私はいろんなものに名前を付けます。「銀色」は私のノートPCの名前です。Powerbook G4 12インチ。MacはMacであってPCじゃない、という向きもありますが、personal computerをPCと呼んで何が悪い、というのが私のスタンスです。PC/AT互換機ではないということならそのとおりですね、とややマニアックに反論しておきます。













