極端な話、箱にネックをつけて弦を張って、何かで弦をこすって音を出せばそれはフィドルです。4弦、GDAEで調弦されていれば申し分なし。
※box fiddleは「手ごろな箱にネックつけて弦張ってみました」式のフィドルの総称として、私が適当にでっちあげたものです。ひょっとすると本当にそんな言葉があるかもしれませんが、真に受けないでください。
かつて安価な大量生産品がなかった時代、「欲しくても買えないないなら作ってしまえ」と考えた人はけっこういたことでしょう。とはいえそう簡単に作れるものでもありません。そこで、弾けさえすればいいと割り切った人は、そのへんの箱をボディにしてフィドルを作りました。よくある例は葉巻の箱。
もともとは間に合わせで作ったものでしょうが、ノスタルジックな(?)魅力からか大まじめに商品化している人もいます。姉妹品としてウィキスキーの箱を使ったものも。
日本人も負けていません。木材屋さんが考案したケーバイ(軽バイオリン)というものがありまして、これも基本的な発想は同じかと思います。
先日フィドル倶楽部に置いてあったケーバイを弾かせてもらいましたが、イージーなつくりながらいい音が出るし弾きやすいしでびっくりしました。十分実用になります。ちなみにその日のセッション・ホストの某プロ奏者は「レッスンに来た人が『自分で作りました』とこれを持ってきてくれたら、僕はとてもうれしいです」とおっしゃってました。最近お忙しいですが、一緒に遊んでもらえるうちはどこまでもついていきたいと改めて思った次第です。
こうした "バイオリンもどき" に眉をひそめる向きもあるでしょうが、楽器は身近な遊び道具であるべきで、大事なのは気軽に持って出られるかどうか、手に取るのが楽しいかどうかだと私は思います。音楽をやるのに「○○世紀中ごろ、××の職人△△が・・・」といった能書きはいらないわけで(いや、そういう話も大好きですけど)。そういう目で見ると「身近な材料で手作りしたもの」は最強じゃないでしょうか。
私の知っているなかで、最も強烈なbox fiddleはこれ、clog fiddleです。 "身近な材料" を使うにも程があります。ぜひ音を聴いてみたい。音源をご存知の方、教えていただけると幸いです。
音源 etc.
Carolina Fiddle Cigar Box Fiddles
cigar box fiddleの愛好家のウェブサイト。How
to Make a Cigar Box Fiddleという手引書が素晴らしいです。
Darci Jones Playing Soldier's Joy:
Cigar Box Fiddle Slow and Soulful:
cigar box fiddleのデモ演奏。これがまた、意外にいい音で鳴ってます。
SANY0743.MP4:
フィドル倶楽部所蔵のケーバイ。この音を聴いたら、楽器に関する世界観(?)が変わります。演奏はジャズバイオリニスト・大矢貞男氏。
pochette(kit、dance master fiddle、etc.)は呼び名もいろいろですが、作りもいろいろです。スタンダードが確立されておらず製作者の考えひとつでやりたい放題、というのはニッチな楽器の醍醐味だと思います。ということで、下調べ中などに見つけたネタをご紹介します。気に入ったものがあれば、おひとついかがでしょう?
アイリッシュなぞやっていますと楽器仲間もマニアックな層が多くなりまして、pochetteを知っている人もたくさんいます。が、知っている人でも私のpochetteを見ると「あれ? こんなんでしたっけ?」という反応がけっこうあります。博物館や図鑑等でよく見かけるのはもっとボディが小さいものが多いんですよね。個人的経験からの印象論で、裏づけはないですが。
例えばこういうの(例1、例2)はときどき "バイオリン屋さん" でも扱っていまして、図鑑等の書籍で紹介されてるのはたいていこのタイプです。ボディが小さすぎますし細工もずいぶんお上品なので、実用品というよりはアクセサリ的に作られたものじゃないかという気がしますが・・・実際のところどうなんでしょうね。
このタイプのものは私が持ってるのとは、見た目・サイズだけでなく構造が異なります。私のは普通のフィドル同様表板・側板・裏板を張り合わせてボディを作りますが、こちらは一本の角材から削り出したボディに表板で蓋をします。そういう作りなんで、多分魂柱もないんじゃないでしょうか(表板の振動を裏板に伝えるためのものなので、ボールバックのだと意味がないかと)。
case caneと呼ばれる仕込み杖みたいなモデルもあります。これもこれで面白いですが、やはりボディが小さすぎますし、弾いて気持ちいいものではないような・・・。弓を中に収納するので、これも魂柱はないでしょう。
中世フィドル風のものが売られているのも見つけました。case caneと同じような発想で、弓を中に収納できます。
意外なことにストラディバリウスのポシェットもあります。古楽器を扱っているお店がレプリカを作っていました。バイオリン風でかなり面白いです。音源も公開されていますが、やはり音もバイオリン風。
当然、昔作られたもののレプリカではなく、オリジナルの工夫を凝らす人もいます。
Adventurous Museというアメリカの業者が、顎当て・肩当てを付けられるようにしたものや、さらに携帯性を追求したものなど面白いモデルを扱っています。
また、びっくりするほどコンパクトなwipLstixというモデルを扱っている業者もあります。youtubeに自分の演奏をアップしている人がいますが、にわかには信じられないぐらいよく鳴っています。Who's Using wipLstix?というページもぜひごらんください。楽しい写真・メッセージがたくさん載っています。
ここまで読んでみて「自分でも作れるんじゃないか?」と思った方、けっこういらっしゃると思います。木工が得意な人なら普通のフィドルよりはずっと簡単に作れると思います。例えばこの人は「バイオリン製作について3時間勉強して作っちゃいました!」と得意げに動画を公開しています。日本でも趣味で木工をやってる人が自作してウェブページに写真を載せたりしていますので、興味のある方は探してみてください。楽器がぐっと身近に感じられ、わくわくする時間を過ごせること、うけあいです。
以下、大きく脱線します。
どうも日本人には、"バイオリン"というのは特別な才能と家庭環境を与えられた人だけが弾く楽器だ、というイメージが刷り込まれてしまっていると感じることがしょっちゅうあります。"プロの音楽家として身を立てることが大変"だということが、楽器を弾くこと自体の難しさと短絡してしまっているのでしょう。
ここで紹介したpochette(あるいはkit、dance master fiddle、etc.)は本質的には"バイオリン"と同じ楽器です。でも、こういう外観ならなんだか気軽に手を出せる、簡単に弾けるような気がしてこないでしょうか? 一度は歴史の舞台から消えてしまったニッチな楽器ですが、現代版pochetteの認知度が高まれば、"趣味の音楽"の裾野がぐっと広がるんじゃないか、フィドルケースをぶらさげてるだけで"住んでる世界の違う人"という偏見をもたれなくなるんじゃないか、などと楽しく妄想する次第です。
携帯が容易で音量が小さめというのも日本の生活事情にばっちり合うはずなので、ウケるとすればまず日本じゃないか、とも思うんですよね。ちょっとずつでも、楽器店に並ばないものでしょうか。
fiddler clubじゃありません。fiddler crabです。
別名calling crabと書けば分かるでしょうか、潮招きのことです。wikipediaの英語版によると "A fiddler crab, sometimes known as a calling crab" ということですので、英語圏ではあくまでfiddler crabが本流の呼び名です。
しかし、英語圏では大きい方の鋏を振る様子を見て、フィドルを弾いているなんて連想が出てくるんですね。名前の美しさでは "潮招き" の詩的な響きに軍配があがりますが、フィドルがいかに身近な楽器であるかが分かってちょっといい気分です。
flickrを検索すると、美しい写真がたくさん出てきます。Ashley MacIsaacのようなサウスポー、フィドルを忘れてきた不届き者(※)、St. Patrick's Dayのパレードなんて目じゃない規模の大行進をやらかすやつらなどいろいろいます。
※性的二形というやつで、 "フィドルを弾く" のはオスだけです。念のため。
いささか旧聞になってしまいましたが、面白いニュースを見つけました。 "菌類でかもした木材" で作られたバイオリンが、ブラインド・テストでストラディバリウスより高い評価を勝ち取ったのだそうです。
Fungus-treated Violin Outdoes Stradivarius
(Science Daily: News & Articles in Science, Health, Environment & Technologyより)
こういうニュース、変な楽器好きにはたまりません。フィドル弾きの私には関係のない話ですが、こういう面白いことはどんどんやってもらえると楽しくていいです。「○○処理した楽器がブラインド・テストでストラディバリウスに勝った!」というニュースは別に大して珍しくありませんが、菌類(要するにキノコ)を使ったというのが強烈なチャーム・ポイントです。
比較対象となったのは2000万ドルのストラディバリウス、普通の木材でつくられたバイオリン2本、菌類で処理された木材( "fungally-treated wood" )で作られたバイオリン2本。ストラディバリウス以外はすべてスイス人の製作者Michael Rhonheimerの作品です。評価の結果は、菌類で処理したもののうちより長く(9か月)処理した "Opus 58" (作品58)がダントツ一位、次点がストラディバリウスだったということです。
周辺情報をあさってみたところ、菌類と木材の組み合わせも以下の2種類だったようです。
菌類はともに和名がないもので、ヨーロッパでよく見られる木材腐朽菌だそうです。後者はおそらく見た目のせいでしょう、 "Dead Moll's finger" (死んだ情婦の指)というちょっとホラーな別名があります。
菌類が楽器の品質を高める仕組みは、菌類の作用により細胞構造が変化し、木材の均質性が高まって音響特性を向上させると説明されていました。通常の木材と比較すると、より温かみのある、まろやかな音になるのだそうです。おそらく菌類が細胞壁の材料である糖質をいじるのでしょうが、処理前と処理後で顕微鏡写真を比較したらどんな風なのか、虫食いみたいに不均等に作用しないための工夫はどんなものなのか、菌類の作用が木材の経年変化にどう影響するかなど、興味が尽きないところです。幕張あたりでよく恐竜展をやっていますが、あんな感じで来日してくれないものでしょうか。
記事中ではストラディバリウスの音色の秘密のひとつとして、1645~1715年の小氷河期の影響で木目の締まった木材が手に入ったことがあげられています。明確には書かれていませんが、菌類で処理することでストラディバリウスが用いたのに近い性質をもった木材を作ることができる、だから音が良いのだと言いたいようです。
Michael RhonheimerさんがAntonio Stradivariusを超える製作者で、菌類で処理したものの方が音がよかったのはただの個体差、といった身も蓋もない事態の可能性については、一切触れられていません。
東京は表参道のヤマナシ ヘムスロイドで開かれたスウェーディッシュ/アイリッシュ・フィドルのワークショップに参加してきました。解散後に1人で最寄り駅内のフードコートで遅い夕食を摂っていると、見覚えのある2人組が席を探していました。ワークショップでご一緒したスウェーディッシュ・フィドルのプレイヤーと、ニッケルハルパのプレイヤーです。
ワークショップ中は曲を覚えるのに必死(楽譜なしで耳で覚えるスタイルでした)、終わった後はけっこういい時間、と他の参加者とお話しする機会がなかったので、これはチャンスと相席させてもらい日本のニッケルハルパ事情を教えていただきました。
日本ではかなり珍しい楽器だとばかり思っていましたが、最近になって日本でもプレイヤーがどんどん増えているのだそうです。「東京にいるスウェディッシュ・フィドルのプレイヤーはみんなニッケルハルパも持っている」とのこと。関西にいる某人物の影響で一気に普及したということですが、私も練習会で遊んでもらったことがある方でした。世間の狭さを実感します。
弦など消耗品の入手が大変ではないかと思ったのですが、毎年知り合いの誰かがスウェーデンに行くのでついでに買ってきてもらうのだそうです。キーの調整や弓の毛替も、スウェーデンに行く知り合いに託すか、自分でやってしまうのだとか。「自分で」というのはものすごく怖いですが、スウェーデンでは楽器は完全に日用品で、日曜大工でいじくり回すものだと言われました。さすがIKEAを生んだ国。一度現地でそういう光景を見ると、自分で楽器をいじくり回しても平気になるのだそうです。ニッケルハルパは他の楽器ほどサイズや構造が固定されておらず、製作者によって全然違うスタイルで製作されていますので、自分で工夫することへの抵抗感も少ないのかもしれません。
お喋りが一段落するたびに「フィドルをやっているならすぐに弾けるようになる」「ユーロのレートが下がっている今がチャンス」と熱心にそそのかしてくるお2人。こういう勧誘は大変困ります。本当に困ります。
楽器の話をしているうちに、当然スウェーデンの話題もいろいろ飛び出しました。その中で一番印象に残っているのは、楽器や音楽の身近さです。一般家庭でもフィドルが2~3本壁から吊るされているのが当たり前、ほとんどの人が某かの楽器を演奏できるというお国柄。日が長い(というか暮れない)夏には、フィドル、リコーダー、アコーディオン、ニッケルハルパなどいろんな楽器が野外で集まり、演奏したり踊ったり、文字通り1日中、お祭り騒ぎが続きます。では1日中真っ暗な冬にはおとなしくしているかというと・・・そこかしこに音楽カフェがあり、そこに集まって「冬の夜長を楽しむ」のだそうです。
音源 etc.
Polska efter Båtsman Däck:
中央区八重洲一丁目さくら通りにて、さくらまつりというイベントでの一幕。「どこの国やねん」とつっこみたくなる光景が繰り広げられています。
The Swedish Nyckelharpa:
ニッケルハルパの紹介ビデオ。美しい楽器が登場します。ナレーションは英語ですがかなり聴き取りやすいです。
violinではなくfiddleに興味を持つような人はみんな知ってるだろう、と思ってたのですがフィドル仲間も意外に(!)知らなかったのでネタにしてみます。
stroh fiddle、violinphone、phonofiddleなどいろいろな呼び方があるようですが、どれも心当たりがない方はまずはWikipediaにアップロードされている写真をご覧ください。
ハーディングフェーレの扱いについて書かれた資料には、必ずと言っていいほど「決してバイオリン弦を張ってはいけない。ハーディングフェーレの専用弦を使うように」と書かれています。バイオリン弦はハーディングフェーレの専用弦よりも張力が強いこと、また一般的にハーディングフェーレはフィドルと比べると華奢にできているため、楽器が耐えられないというのがその理由としてあげられています。
検索エンジン経由でこのサイトにやってくる方が入力した検索ワードの、楽器関連での一番人気は "ハーディングフェーレ" です。この傾向はハーディングフェーレを買ってしまったというネタを披露する前からずっと変わりません。フィドルではないのがちょっと残念です。
"ハーディングフェーレ" で検索するとこんなしょうもないサイトがヒットするということは、ハーディングフェーレに関する日本語の情報がいかに少ないかを端的に表しています。ということで、ささやかながら、あちこちで拾ってきた情報をちょっとずつまとめてみようと思います。もちろん、所詮は落書き帳ですので、それなりに割り引いてお読み下さい。間違いがあればメールなりコメントなりでご指摘いただけると嬉しいです。
まずは調弦の話から。
ハーディングフェーレが届いて1週間経ちました。こちらにコメントを残してくれた人たちに代表されるマニアックなフィドル弾きのみなさんは、そろそろ実物に触れた感想等、詳しい話を読みたいのではないかと思いますが、その前に注文から楽器を手に取るまでのエピソードを、写真を添えてをネタにしたいと思います。
実物を手にも取らず、音も聴かず、メールでのやり取りだけですますという無茶苦茶な買い方をしましたので、参考にはならないと思います。むしろ参考にするとまずいでしょう。その点はご注意ください。
Q:フィドルには弦が何本あるでしょう。
A:4本。
ところが、世の中には低音側に弦を1本追加した5弦フィドルなるものがあります。いかにもキワモノっぽいですが、フィドル(ヴァイオリン)よりも古い中世フィドルは3〜5弦のものが一般的だったそうですので、ある意味で伝統回帰と言えるのかもしれません。
「フィドルのネックじゃなくてフィドラーの?」と困惑されそうですが、皮膚疾患(というか外傷?)の名前です。正式な名称かは知りませんが、医学系の雑誌でも使われる言葉です。とはいえ、一般人にはあまり知られていないと思います。
ハーディングフェーレ(hardingfele)はニッケルハルパ(nyckelharpa、どこまでfiddle? − nyckelharpa参照)よりも断然fiddle度の高い楽器です。ハルダンゲル・フィドル(hardanger fiddle)という呼び名もあるぐらいですから、fiddleと呼ぶのに何ら抵抗はありません。
子供のころに7年、10年ちょっとブランクを経て再開してから3年。通算10年フィドル/ヴァイオリンを弾いていることになりますが、恥ずかしながらいまだに楽器の構え方がよく分かりません。
「フィドルって何? バイオリンの親戚?」などときかれると、ついつい喋りすぎてうざがられます。
世の中にはひとことで説明してしまう気の利いた人がいまして、こんな言葉がよく紹介されます。
バイオリンは歌う、フィドルは踊る。
(The violin sings, the fiddle dances.)
大好きな言葉です。
別のエントリでfiddleはviolinの俗称であると紹介しました。が、もっと広い意味で使われることもあり、violinだけでなく似たような楽器であればとりあえずfiddleと呼んでしまうようです。きっと明確な定義はなく、主観的に区別してるんでしょう。
世の中には楽器にまつわるジョークがたくさんあります。ジョークの数、知名度には楽器の人気、「おいしさ」がそのまま反映されているように思います。
庶民に愛される楽器、われらがフィドルにも、もちろんいろんなジョークがあります。
フィドル、あるいはフィドル弾きについてのおもしろい戯れ歌があります。
ここ数年、日本でもフィドル人気が盛り上がってきており(?)、 "フィドラー" のCDが店頭に並んでいるのもよく目にするようになりました。また、小規模ではありますがフィドルをテーマにしたイベントもぽつぽつと開催されています。
とはいえ、多くの人にとってフィドルというのはまだまだ耳慣れない言葉だと思います。